プロの通訳者が準備段階でWikipediaを活用することは、業界では「常識」と言える一般的な手法です。もちろん、内容の正確性には慎重であるべきですが、それ以上にWikipediaには通訳の現場で役立つ「魔法の機能」が備わっているからです。
具体的にどのようにプロが活用しているのか、そのテクニックを解説します。
1. 最大の目的:言語切り替えによる「対訳の特定」
プロが最も重宝しているのが、左側のサイドバーにある「言語切替(インターウィキ)」機能です。
- 使い方の例: 「超電導」という専門用語を訳したいとき、日本語版の「超電導」のページを開き、左メニューの「English」をクリックします。すると即座に英語版の「Superconductivity」へ飛びます。
- なぜ辞書よりいいのか: 一般的な辞書では、文脈によってどの訳語が適切か迷うことがありますが、Wikipediaでページがリンクされていれば、それは概念として同一であることが担保されているため、誤訳のリスクを大幅に下げられます。
2. 専門用語の「周辺語彙」の網羅
通訳の準備(プリパレーション)では、単語だけでなく、その分野で一緒に使われる言葉(コロケーション)を覚える必要があります。
- 活用術: Wikipediaの記事冒頭には、その用語の定義や関連する動詞・形容詞が凝縮されています。
- 例:「金利を引き上げる(raise)」「景気が後退する(recede)」といったセットで使われる表現を一気に拾い上げます。
3. 「概念の概要」を短時間で把握する
通訳者は明日には「半導体」、明後日には「国際法」といった具合に、未経験の分野の仕事をこなす必要があります。
- 活用術: 難解な専門書を読む前に、まずはWikipediaで「その概念が何なのか」をざっくり理解します。特に「概要(Summary)」の部分は、専門知識がない人にもわかるように書かれているため、クライアントの話の文脈を理解するための「脳内地図」を作るのに最適です。
4. プロならではの「注意点」と「補完術」
プロはWikipediaを100%は信用しません。以下のステップを組み合わせています。
- 脚注(References)を辿る: Wikipedia本文ではなく、その下にある「出典」を確認します。政府の公式サイトや学術論文へのリンクがあれば、そこを「正解」として採用します。
- Google検索との併用: Wikipediaで見つけた用語が、実際にその業界の企業サイトなどで使われているか、ダブルチェックを行います。
- 「ノート」ページの確認: その用語の定義に論争がある場合、Wikipediaの「ノート(議論)」ページを見ると、何が論点になっているかがわかります。これは交渉や議論の通訳で非常に役立ちます。


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